パーソナルショッピングや買い物同行をしていると、お客様から
「これ、日本製だからいいですよね」
「イタリア製なら間違いないですよね」
といった言葉を投げかけられることがあります。
その一言に、どのように応えるかによって、その人が「服に詳しい人」なのか、「安心して任せられるプロ」なのかは、想像以上に伝わってしまいます。
生産国について長く語る必要はありません。ただ、知っているかどうかで、説明の深さと説得力が確実に変わる知識があります。今日はその中でも、パーソナルショッピングを行う方は、頭の片隅に置いておくと役立つ視点をお伝えします。
まず大切なのは、生産国は「品質の優劣」を直接示すラベルではない、という事です。現代のアパレル生産は国単位で完結しておらず、品質は、生産国そのものではなく、仕様設計、原材料、工場レベル、品質管理体制、発注側の基準によって決まります。生産国表示は、その分業構造の一部を示す情報にすぎません。
したがって重要なのは、どの国が優れているかではなく、どの工程や役割が、どの水準でその国に配置されているかという構造の違いを理解することです。この前提を持つだけで、生産国表示の見え方は大きく変わってきます。
日本製の服は、平均的に見て仕上がりの安定性が高い傾向があります。その理由は、単なる技術力というより、工程管理と検品基準の厳格さにあります。どの段階でズレが起きやすいかを前提に工程が組まれ、複雑な仕様でも再現性を保ちやすい設計がなされています。その結果、派手さはなくとも、長期的に信頼しやすいベーシックが多い、という特徴につながっています。
イタリア製の服は、とくに高級縫製ラインにおいて、「着たときに完成する」と表現されることが多くあります。平面で見たときより、着用した瞬間に立体感が生まれる背景には、人体に乗せて調整する設計文化があります。ただし、すべてのイタリア製品が同一水準というわけではなく、高価格帯の伝統的テーラリング文化を背景とした製品に、この特徴がより顕著に表れます。工程数が多く、手間がかかるため価格帯が上がりやすいのも、構造的な理由によるものです。
フランスの場合、生産国というより「どこで美意識とデザイン方針が決定された服か」という視点で捉えると理解しやすくなります。縫製は他国で行われていても、シルエットや分量感、世界観の最終判断はフランス側で行われるケースが多く、フランス表記やフランスブランド表記は、技術そのものよりも美意識の起点を示している場合が少なくありません。
中国は一括りに語ることができません。大量生産向け工場もあれば、世界的ラグジュアリーブランドの製品を長年手掛けてきた高技術工場も存在します。同じ中国製でも中身は大きく異なり、重要なのは生産国ではなく、どの工場で、どのような品質管理体制のもとで作られているかです。
ベトナム、カンボジア、バングラデシュなどは、仕様が確定した服を大量に安定生産することに長けています。日常着やベーシックアイテムとの相性が良く、反復生産に強い地域です。近年は高付加価値製品に対応できる工場も増えていますが、産業構造としては、確定仕様の量産工程を担う役割が中心となっています。
韓国は、試作から修正までのスピード感が特徴です。完璧さよりもトレンドへの即応性を重視する生産文化は、中価格帯のトレンドアイテムと非常に相性が良いと言えるでしょう。
ここで改めてお伝えしたいのは、生産国の知識は、国の優劣を判断するためのものではないということです。「この服は、こういう使い方をすると自然に馴染みます」と、無理なく伝えるための背景理解のひとつと捉えていただくとよいと思います。
そのような視点を持っているだけで、服の選び方も、言葉の添え方も、少しずつ変わってくるでしょう。
生産国を判断材料のひとつとして冷静に受け止められるようになると、服の見方は少しずつ整理されていきます。どこで作られたかよりも、どのような考え方で作られているかに目が向くようになるからです。パーソナルショッピングに関わる立場の方は、ぜひこのような視点も自然に身につけておかれると良いでしょう。